想你 [猫日記]
猫くん、きみは元気かい?
昨夜、ぼくは夢を見たよ。
ようやく温もりを感じられるようになった朝の光の中で僕はまどろんでいる。
そこへきみがやっていて「ヒョイ」とベッドに駆け上がる。
いつものように右前足の肉球でぼくの頬を撫でながら「みゃ~っ」と言って朝御飯をねだる。
ぼくが「ん~」と唸りながら布団を被ってしまうと
きみはぼくの足元にまわって左足の親指を噛み噛みする。
「やめろ~」と被っていた布団をめくるときみはまたそそくさとやってきて
右前足の肉球で僕の頬に「ムニムニ」と圧力を掛ける。
片眼を明けて「もうちょっと待っててよ」と言うと
きみはぼくの顎をザラザラした舌で「ペロッ」と舐める。
「お前ももう少し寝てればいいじゃないか」と前足を掴んで布団に押し込めると
きみはジタバタと暴れてから布団を飛び出す。
「仕方ないなぁ」と呟きながら起き上ってキッチンまで行ったけど、きみの姿が見あたらない。
「猫く~ん、猫くん?」
「あれ?どこ行ったの?」
「猫くん?どこ行ったの?」
ぼくは机の下やソファーの下、テレビの後ろ、洗面所、
それからベッドルームに戻ってベッドの下を探す。
「猫く~ん、猫くん?」
「あれ~、どこ行ったのかなぁ……」
そこで目が醒めた。
それからぼくはキッチンへ行き、流し台の上にある棚の扉を開ける。
棚の中にはきみが食べていたキャットフードがあの時のまま置いてある。
そのプラスチック容器の蓋を開けて魚の形をしたキャットフードを一粒食べてみる。
「おお、これはツナ味だな」と呟くと急に懐かしさが込み上げてきた。
もう一粒食べてみる。
それはマグロの味がした。
猫くん、これ本当に美味しかったのかなぁ……
猫くん、ぼくは明日、日本に帰ります。
すぐに戻ってくるけどね。
そういえば、ぼくがきみを預かっただけで飼うまでに至らなかったその理由は
ぼくが日本に帰っている間、きみに寂しい思いをさせたくなかったから。
誰かに預けることもできたんろうだけど、いや、そうすればよかったんだよね。
それなのにぼくはなぜあの時きみを手放してしまったんだろう。
後になって悲しい思いをするくらいなら、もっとよく考えてみれば、方法はあったのに。
今からでもきみを取り戻しに行こうか……
でもきっときみは今の飼い主の一家に囲まれて楽しく暮らしているのだと思う。
そうだよ、やはり単身赴任の身分ではきみに寂しい思いをさせるだけだもの。
だから、これで良かったんだ……と思う。
猫くん、ぼくは明日から日本へ行ってきます。
まぁ、出張みたいなものだね。
すぐに帰ってくるから、いい子にしているんだよ。
お土産は日本のキャットフードでいいかな?
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