紫陽花の記憶 [自然]
空港からの直通列車を降り、晴れとも曇りともつかない梅雨空の下を歩いた。
自宅近くの病院まで来ると駐車場の脇に紫陽花が咲いていた。
あれはいつのころだったのか。
場所は鎌倉。
明月院……いや、海の近くだった。
紫陽花に囲まれた彼女は首を少しだけ左に傾げて、
まるで猫のぬいぐるみのように無表情な顔をして立っていた。
パステルで描いたような紫陽花の青は私の好きな色の一つ。
彼女の着ているふわりとした白い木綿のシャツをこの青で染めたら似合うだろう。
彼女のポートレートは後にも先にもその一枚だけ。
会話は何一つ覚えていない。
曖昧な思い出の中の鮮明な写真。
紫陽花の記憶。
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